「部長の言ってた境界線。今もここにありますか?俺にはないように感じられますけど」
私は再び、やられたな、と思った。
さすが頭はいいだけあるなと、悔しくなった。気づけば高鳴る心臓に、落ち着けというほうが酷だ。私はまた高橋のペースに乗せられていた。しかも、気づかないうちに。
「境界線はある。君は今それを越えようとしてる」
「次は覚悟を求めるんですね」
表情は変わらないのに、発言が仕事場での高橋とは掛け離れていて、やっぱり調子を狂わされる。
高橋はいつも通り、嬉々としながら私の目を見つめた。少し潤んだその目に、とうとう林ユリコの女の部分が現れてしまった。
長い間奥に追いやられた埃まみれの私は、高橋の指を払いのけ、自分からキスをした。
触れるだけのそのキスの後、高橋は照れ笑いながら目を背けた。
「頼りない後輩に覚悟なんて求めるのはかわいそうよね」
目の前で理性が崩壊するのを見た。
「私から越えることにする」
