高橋の醸し出す、ほんわりとした雰囲気に私は癒されていたようだった。仕事場での鬼部長でも、恋愛できないダメ女でも、何でもない私。
ただの、林ユリコでいられる。
私はカップ麺を啜りながら、ふとそんなことを考えていた。
「でも部長も意外ですよ」
どうでもいい会話に一段落ついた頃、高橋が急にそんなことを言いはじめた。
「一回言ったことは撤回しない人だと思ってました」
私はわけがわからないまま、空になったカップを机に置いた。私がいつ何を言い、何を撤回したのか、全く心当たりがない。
「何のはなし?」
「部長の言ってた境界線のはなしです」
それを聞いて、またあの感情が蘇ってきた。自分を嫌に感じ、責めたくなる、あの感情。
「撤回なんかいつしたの」
「今ですよ」
高橋の指が、不意に私の指にからまる。床についたその手を動かすと、バランスを取れずこけてしまう。高橋はやはり嬉しそうにその指でさらに私をからめとろうとする。
