境界線


意味がわからないと言いつつも、私は高橋に興味津々だった。ぼさぼさの髪をした、いつも以上にまぬけな後輩の横に座り、カップ麺の蓋をめくった。

「お湯いれますね」

高橋は嬉しそうにカップに湯をそそぐ。カップ麺なんて久々だ。食欲をそそる匂いに、私も高橋も少しにやけていた。

「高橋って大学どこなの?」
「K大の経済出身です」
「え。賢いんだね」
「よく言われます。意外だって」

私はあの専門書たちの存在理由に納得しながら、高橋の意外な一面に素直に驚いた。

「K大出身のエリートがコピーの一つもまともにとれないなんて」

私が小馬鹿にしたように笑うと、高橋ははにかみながら謝った。

高橋がカップ麺の蓋をめくり、割り箸を割る。私も同じようにした。曇るとうっとうしいから、眼鏡は机の上に置いた。

「俺、勉強はできるんです。でも何かを実際に行動してみろって言われると無理で」
「体育の成績悪そうね」
「…はい。常に3でした」

熱い麺を啜りながら、他愛のない会話が続いた。高橋の姉のジャージが妙に着心地よくて、私はすっかりリラックスしてしまっていた。