境界線


「まあ、その流れだったけどね」

マキの目の前の皿から枝豆をつまみ食べた。私は大好きな日本酒をちびちびと味わいながらまたマキに昨晩の話を始めた。



「お先」

髪をふきながらリビングに向かうと高橋が嬉しそうに机の上にカップ麺を並べていた。

「部長。どれがいいですか?」
「この時間帯にラーメンて太るのよね」

私が冗談めかして言うと、高橋は少しばつの悪そうな顔をする。

この顔、嫌いじゃないな。

「うそ。太るなんか気にしてないし。私これ」
「あっ。俺密かにそれ狙ってたのに…」
「いただきます」

高橋の膨らませた頬をつつくと、私も自然と笑顔になっていた。こんな感覚も久々だった。

会社でバリバリ仕事をして、帰りの電車でお気に入りの曲をウォークマンで聞く。家に帰ったらまず洗濯物を取り込んで、お風呂をわかす。お風呂から上がったら一人でカップ酒で乾杯。

そんな毎日を送る私にとって、これは久々に刺激的な夜だった。