私は近くにあった机のペンスタンドから長い定規を引き抜いた。地面に投げると、私と高橋の間にぴったりはまった。

「…何ですか。これ」
「境界線」

私の腕を掴む高橋の手を振り払い、高橋の胸を少し強めに押した。高橋はその衝撃で後方に二三歩下がった。

「私は上司。高橋は部下でしょ?」

高橋はさすがに笑顔を消し、現状を把握しきれない表情で頷いた。

「だったらちゃんとわきまえてよ。覚悟もないくせに境界線を越えてこないで」

何やってるんだ、私は。

吐き出した言葉をもう一度飲み込めないものかと、激しく後悔した。だがもう遅い。

私の悪い癖だ。
すぐに境界線をひいて、不用意に近づく人間を排除しようとする。その果てには孤独しかないというのを、どうして経験から理解できないのだろうか。

いや、経験から理解しての行動か。

「難しくてよくわかりませんが、すいませんでした」