セミの声がやたらうるさい。



ついに高沢学園も夏休みに突入して、校舎の中は静まりかえっている。

岩に染み入る、なんて昔の人が言っていたが、うまいこと言ったよな、なんて思う。



外から野球部の練習の声やバットの甲高い音が響いてくる中、僕は暑い教室の中にいた。



映画研究部の集まり。


4月から今まで、目立った活動はしてこなかったのだが、秋の学園祭に向けてついに映画の製作に入るのだ。

もう久しぶりに会う部員ばかりで、少し変な感じがする。



「…………で、今年の台本は高橋先輩の……」


部長が話を進める。


今年の僕にはとくに役割はなかった。

毎年学園祭の映画というのは、3年生の最後の見せ場というか、3年生が中心になる。

今年も3年生の先輩の台本をもとに作ることになって、まだ2年生で同じ台本担当の僕には仕事はなかった。

やることといえば本番の大道具の搬入くらい。


でも映画研究部が好きな僕には、話し合いに参加するだけでも楽しいものだった。




「じゃあ、あとはキャスティングだから、決まったら連絡しまーす。
次の会議は来週の月曜日なんで、よろしく。」


部長がそう締めると、みんな一斉に立ち上がってだらだらと教室を出て行った。


僕もいつもよりも軽いかばんを持ち上げて、教室をあとにした。






僕は駐輪場に寄って自転車を持ってくると、校門とは逆のほうへと向かう。

暑い日差しとアスファルトから返す熱気ににじむ汗をぬぐいながら、僕は自転車を停めて体育館へ入った。


重いドアを横にひく。



「パス!!!」

「ナイッシュー!」


熱気とともに、掛け声と靴がこすれる高い音が聞こえてきた。



僕が体育館へ入ると、何人かのバスケ部の部員がこっちに気づく。


「三宅ー、おつ。」

「よ!」


何人かの声に僕は手を挙げて答えると、かばんを隅に置いて座り込む。

シナリオノートとカメラを取り出すと、僕はその場でシナリオを書き進めた。



僕はここのところ、こうしてバスケ部の練習を見学させてもらっていた。

バスケ部の話を書くことに決めたのだ。


中野はその案にひどく喜んで、練習を見に来いと言ってくれた。

僕ははじめは遠慮したのだが、他のバスケ部のやつも気に入ったみたいで、みんなもそう言ってくれて。



今ではみんな慣れたもんで、バスケ部の先輩とか後輩も僕の顔を覚えてあいさつをするほどになった。