「……………じゃ、明日からテストはじまるからな。お前らがんばれよー。

飯島、号令。」

「起立、礼。」



いつもの飯島さんの号令で授業が終わり、机と椅子がぶつかる音がうるさく響く。


僕も上機嫌で立ち上がって、教科書をかばんにつめると中野の席に向かう。



テスト期間っていうのは本当に楽で、授業は自習ばっかりだし、明日からのテストなんかは午前中で終わるからすぐに帰れる。

部活をさせてもらえないのはひどく残念だけど、僕はテスト期間は嫌いではなかった。




だけど一部の人間には……




「だああテストとかありえねぇ。」


帰る準備をすることなく机に突っ伏せる中野。


僕は思わずため息をついて、床に置かれた中野のでかいかばんを中野の頭に乗せる。



「お前が勉強しとかないのが悪いんだろ。

なんで一週間のテスト期間に遊びほうけてんだよ。」



中野はテスト期間のあいだ、普段放課後を部活に費やしている反動なのか、毎日毎日遊んでいた。

といっても、家の近くの公園でバスケをしているか、僕の家にいるかなのだが。


少し顔を上げて、いつになく悲しげな顔で僕を見上げる。


「今日もお前ん家行っていい?」

「だめ。」

「みやけ〜!!」


突然起き上がって頭の上のかばんをどさりと床に落とす中野に、思わず少し後ずさる。



「薄情なやつ!いいだろ〜?」

「はあ?やだよ。
お前うちに来ても横で遊んでるだけじゃん。集中できないし。」



僕はまだ椅子に座ったままの中野を放って机をずらすと、中野の机の引き出しから汚く飛び出た教科書やらプリントやらを落ちたかばんに詰めていく。



「ほら、早く帰るよ。
僕は明日の数学やりたいんだから。」

「そうやってお前はテストで良い点とって俺を裏切りやがって。」

「意味わかんない。
お前も勉強すればいい話。」

「はあ?!お前本気で俺が勉強すると思ってんの?」

「おーい。」



やだやだ言いながら子供みたいに椅子の上でだだをこねる中野にかばんを無理矢理持たせていると。



「あの、泪くん。」


飯島さんに呼ばれて、振り向く。



「ん、どうしたの?」


飯島さんは手に持った数学の教科書を開き、僕の横に並んであるページを見せるようにしながら、問いのひとつを指差す。


「ここの問題なんだけど、いまいちよくわかんなくて…。

泪くん数学得意だから。」


僕はその問いをしばらく見つめ、解き方がわかってそのページに載った問いと公式を指差す。