「うん、私もそう思う。
でも突然話しかけて引かれたらやだな〜って思ってさあ。

だからゆうちゃんと三宅くんがお昼ごはん食べてるの見つけたときはすごくうれしかった。」



すると突然宮田さんはまた立ち上がって、さっきのように後ろ向きに座って外をながめる。

僕も肩越しに振り向いて外をながめると、いつの間にか僕たちのゴンドラは頂上近くまで上がってきていたようで、滅多に見ることのない景色が下に広がっていた。




「………ノート、持ってこればよかったな。」


思わずそうつぶやくと、宮田さんは小さく笑う。


「また来ればいいんだよ。
また来て、またいっしょに観覧車乗ろ。」


夕日に照らされてオレンジ色に光る宮田さんの横顔を見て、僕はうなずく。


「うん、そうだね。
また乗ろうね。」


すると宮田さんは僕のほうを見て、左手の小指を差し出す。



「………ほんとに…ほんとにまたいっしょに乗ろうね。約束だよ?」


少し小さな声で言う宮田さんに僕はしばらくその目を見つめて、自分の右手の小指を、小さな宮田さんの指に絡める。



「……ん。約束。」



宮田さんの指は本当に細くて、折れてしまうんじゃないかと思う。

まだ僕らは中学生なのに、もうこんなにも女子と男子はちがうんだな、なんて考えた。




指を離して僕らはまた景色を眺めたけど、僕はなんだか景色に集中することができなかった。


友達と遊んで帰る帰り道の夕日は、いつもなんともいえない切なさをあおる。

もう一日が終わってしまう悲しさと、もう別れなければいけない寂しさに心が満たされていく感覚は、やっぱり好きじゃない。


だけど今のこの気持ちは、そんな言葉では言い表せないものだった。


切ないけど、悲しいけど、どこか満ち足りた、幸せな気持ちが見え隠れしている。



そんな気持ちとは裏腹に、ゴンドラはしっかりと一定のペースで山を越え、少しずつ景色が近づいてくる。




それからの僕は、こんな気持ちになっているのが僕だけな気がして、宮田さんの顔を見ることができなかった。