「…………なんだあれ。」
思わず女子たちの背中にそうつぶやくと、中野が背中を小突いてくる。
「いやーん。うちのるいちゃんがモテてる〜。」
「いやーん。」
気持ち悪い口調で言う中野に、なぜか宮田さんもノリノリで乗っていて。
そう言われるとなんだか恥ずかしくなってきて、
「そんなんじゃない!」
と言って手でしっしっと2人を払う。
「てか、中野は次の試合いつから始まんだよ!」
「あ?俺は………って、やべ!!」
「わ!私もやばい!」
「ほらほら、いってこーい。」
焦って走っていく2人を見送り、一息ついて肩にかけたタオルで顔を拭く。
「あの、泪くん。」
後ろから小さく声をかけられ、振り向く。
すると、なぜか少し落ち着かないようにうつむいた飯島さんがそこに立っていた。
「飯島さん……。」
僕が飯島さんに近づくと、飯島さんはやっと顔を上げて少し微笑む。
「あの、試合、おめでとう。」
それに僕も笑って、
「ありがと。
あ、タオルとドリンクも。
ほんと助かったよ。」
と言う。
それから、はたと気がついて、
「あ、タオル、汚れちゃったから今度洗って返すね。」
と、首にかけたタオルを指差すと、飯島さんは手を横に振ってうなずく。
「あ、気にしないで。
いつでもいいから。」
そう言って去って行こうとする飯島さんが、なんだかすごくさみしそうに見えて、僕は思わず声をかけた。
「あの、さ。」
「?」
振り向いて立ち止まる飯島さんに、僕はなんだか少しむずがゆい感じになりながらも、なんとか微笑んだ。
「どうせ次の試合まで暇だし、いっしょに試合見て回らない?」
飯島さんはしばらく呆然としているようだった。
僕は答えを待っているのもなんだか恥ずかしくて、帽子をかぶり直して振り向くと、さっさと歩きはじめる。
「ほら、中野と宮田さんの試合見たいんだ。行こ。」
飯島さんが着いてくるか心配で、もう一度振り返ると、うれしそうな足取りで飯島さんはついて来ていて。
「どうしたの?行くんでしょ?」
僕を追い抜いて歩いていく飯島さんに、僕は笑って走って追いかけた。


