フェンスの向こうに、暑さを感じさせないほど涼しげにジャージをきた飯島さんが立っていた。
細身には大きすぎるジャージ。
長い真っすぐな髪は、いまは2つにまとめていた。
「やほ、飯島さん。」
「や、やほ。」
ボールを片手でお手玉しながらフェンスに近づく。
「調子どう?」
「もうね、中野の試合で盛り上がったから喉は死んだよ。」
「えぇー大丈夫?」
「うん。試合には関係ないからね。」
飯島さんはそこで後ろに組んでいた腕を前にだす。
すると、その手にはスポーツ飲料らしいペットボトルと、それを巻くタオルがゴムで留められていた。
それを不思議そうに僕が見ていると、飯島さんが数歩下がる。
「いくよー。」
「へ?」
気合いをいれた顔で飯島さんはそう言うと、
「や!」
という掛け声とともに、思いっきりペットボトルを上に投げる。
即席とはいえ、それなりに高いフェンスぎりぎりを超えてこちらがわへ落ちてくるペットボトルに、
「わわわわ。」
慌てながらも僕はなんとかキャッチした。
「それ、飲んで。」
うれしそうにフェンスの向こうで微笑む飯島さんに、僕も思わず笑う。
「すごくない?キャッチボールの成果じゃん。」
「でしょ?じゃ、試合応援してるから。」
「ん、喉かわいてたから、助かった。さんきゅ。じゃね。」
「ばいばい。」
手を振って去っていく飯島さんを見送ると、吉田がなぜか肩を落として近づいて来る。
「あ?どうしたんだよ。」
「いや、たださあ〜……」
吉田は僕に肩を組んできて、小さな声でごにょごにょと言う。
「やっぱりピッチャーってのは花形だろ?」
「あ?ああ、あ?うん。」
「キャッチャーっていうのは、マスク姿かいかつい背中しか見てもらえないわけよ。」
「あー確かに。」
「用はさ………」
吉田は僕の肩から腕を離し、わなわなと肩を奮わせてじたばたと暴れる。
「俺もモテたい………!!!」
「はあ?」
僕は呆れて帽子をかぶりなおした。


