「これでよし。」
俺は家の電話を置いてうなずくと、Tシャツの下から手を入れて背中をかきながら、階段を上る。
「優太!あんたまだ寝るの?」
後ろから呼ばれて階段の途中で振り向き、下で俺を呆れたように見上げる母さんを見下ろす。
「いいじゃん。久しぶりの休みなんだからさ。」
「あんたね………。夏休みの宿題だって貯まりに貯まってるでしょ!今のうちにやらないと後で困るからね!」
「ああ、そんなもん三宅に見せてもらうよ。」
「またそんなこと言って!三宅くんに迷惑かけるもんじゃない!」
怒ってそう言う母さんにはじめは顔をしかめるが、すぐにあいつのさっきの顔を思い出して笑う。
「……こっちはあいつのためにこんだけ働いたんだから、それくらいさせねぇと割に合わねーよ。」
「え?あんた何言っ……」
「おやすみー。」
「優太!!」
母さんの声を背中に聞きながら、俺はまた階段を上って部屋に向かった。
「返事…………?」
飯島の言葉に、僕は思わず固まってしまった。
「……うん。昨日は……返事とかしないまま帰っちゃったから……その…………」
「…あ………うん……」
顔を真っ赤にしてうつむいたまま小さな消えそうな声で言う飯島に、こっちまでつられて顔がほてってくる。
これが夏の日差しのせいでないことは、言うまでもなかった。
「あの…ね…………」
スカートを握りしめる手を見つめながら、飯島が小さく口を開く。
「……き、昨日は…その………泪くんの気持ち……ほんとに、うれしかった、よ…………」
「……………。」
恥ずかしすぎてもう逃げ出したい衝動にかられるが、必死で自分をそこに縫い付けるように、僕は強く地面の草原の草を握りしめていた。
「それでね…………」
「………うん…………。」
ああああ、気持ち悪い。
心臓が喉の真ん中まで出てきた感じで、さっきから何度も唾を飲んでごまかしている。
飯島の動きのひとつひとつに敏感になる。
「…………んー!!」
そんな中、突然そう叫んで顔を両手で覆う飯島に思わず身体が跳ね上がる。
「え、な、なに?大丈夫?」
思わず飯島の顔をのぞきこもうとするが、飯島は顔を覆って首を何度も横に振り、手の平の向こうから声を上げた。
「……っ!ちがう……ちがうの!私ったら……もう……何言って……!」
「お、落ち着いて、飯島。」
いつもより高い声で、騒ぐように言う飯島に、思わず顔を覆う飯島の手首を握って止める。
飯島はゆっくりと手を離して、顔を真っっ赤にして、うるんだ目で僕を見上げた。


