手が、ひどく冷たい。
路地裏に向かう曲がり角に立ち尽くす。
角を曲がった先では、小さな恋が生まれていた。
「………ほんとに……?」
なっちゃんが、震えた声でそう聞き返している。
それに、もう答えないで、と叫ぶ最低な私がいた。
さっき聞いた言葉が、声が、まだ本当だとは信じたくなくて。
もしかしたら、これは夢かもしれない。
もしかしたら、聞き間違いかもしれない。
その可能性を、潰してほしくない。
でも、現実は甘くないものだ。
「………嘘なんか、つかないよ。」
彼の声が、私に突き刺さった。
良い天気だ。
田舎ではないこの町でも、今日は少しだけ星が見える。
虫の声が少しだけ聞こえて、それだけが今の俺の鼓膜を揺らした。
俺は自分の家の玄関の前で、さっき祭の屋台から買ってきたイカ焼きを食べていた。
左手には、りんご飴。
「優太。まだ外にいるの?」
玄関の段に座り込む俺の後ろから、母さんがドアから顔を出してそう聞く。
「ん。心配すんな。」
「…そう。風邪引かないようにね。
さよちゃんにも、伝えて。」
「……は?」
「遅くはならないようにね〜。」
思わず振り向いたころには、母さんはもうドアを閉めて中に入っていってしまっていて。
俺は小さく笑って、
「お見通しかよ。」
とつぶやいた。
そこで、目の前の通りの向こうから小さな足音が聞こえて、座ったまま背伸びをして覗く。
「…………やっぱり、来たか……。」
通りの向こうからゆっくり歩いてくる人影を見つめ、俺は立ち上がって通りまで出た。
あいつは、俺が立っているのを見つけて、少し気まずそうにうつむいてしまった。
目の前にくるまで、待つ。
「よ。」
「………………待ってたの?」
「………ほら、りんご飴。お前好きだろ。」
「……………。」
「ほら。食えよ。」
差し出したまま待つと、宮田はゆっくりとりんご飴を受け取って、握りしめる。
その姿が、本当に小さくて。
涙を流さない姿が、本当に切なくて。
目を細めてその宮田を見てから、足元に置いてあったビニール袋を持ってその横を通りすぎると、立ち尽くす宮田の腕を掴んで引っ張る。
「ゆうちゃん?」
「黙ってついてこい。」
いつもなら大股で歩く俺も、今日だけはゆっくりと、宮田が着いて来られるように、歩いた。
消えそうな宮田の腕を、しっかりと掴んで。


