歌が、聴こえた。
球技大会のあと。
もうだれもいない静かな教室から、歌だけが聞こえる。
「…………『きっと君は知らない
この世界の大きさも
あの太陽の熱さも
宇宙の広さも
そして
君を想う僕の今を』……」
彼の声だ。
歌、うまいんだな、なんて思う。
教室の開けっ放しのドアに背中をあずけて、私はばれないように静かにその声を聴いていた。
「馬鹿だな…………。」
私は思わず少し笑って、だれにも聞こえないような声でつぶやいた。
わかってないのは、そっちなのに。
鈍感なのは、あなたなのに。
歌の続きが、鼻歌に切り替わる。
ああ、つづきの歌詞が思い出せないのかな。
そういえば、前に彼がこの歌を歌っているのを聴いたときも、同じところで止まっていた気がする。
私は知ってるよ。
あなたが、あまりにもその歌を歌うから、調べたんだもん。
とてもきれいな、でも切ない、純愛の歌。
『でも、どうか気づかないで
気づかないままでいて
今の君が好きだから
変わらないでほしいから
無垢な君でいてほしい
たとえ……………』
なぜかそこまで思い出して、胸が苦しくなる。
今まで、恋する乙女がよく言うこの苦しみは嘘だと思っていたけど。
本当にこんなに苦しくなるものなんだな。
まるで細いピアノ線で、心臓を強く絞られているような感覚。
熱い。
目を閉じて、続きを頭の中に流す。
『たとえ
僕の恋が犠牲になろうとも
僕は喜んで泡になる
泡になって空気になって
君の知らない大きな世界を
広い宇宙を
君の代わりに見守るから……』
ドアの向こうから聴こえてくる彼の鼻歌はご機嫌なようで、きれいな旋律をなでるように進んでいく。
私はこんなに、切ないのに。
この歌詞の意味がわからない。
私は、そんな恋は嫌なのに。
「………………。」
一度大きく息を吸い込む。
乱れた髪を結び直して、自分に勝を入れる。
ドアから離れる。
教室の向こうのベランダには、ベランダの柵にもたれる彼の背中があって。
それを見るだけで、自分の心が喜ぶのがわかる。
自分も馬鹿だな、なんて思う。
声をかけると、彼は驚いたような顔で振り向きながらも、すぐにいつもの優しい微笑みに変わる。
あの微笑みが好き。
大好きなあの顔に向かって、私は歩き出した。


