三宅くんの家には、もう三宅くんはいなかった。
家にいたさくらちゃんは、お母さんに浴衣の着付けをやってもらいながら、
『お兄ちゃんはなつみちゃんとお祭りに行ったよ。』
と言っていた。
でも、わざわざ祭の賑わいの中、探す気にはなれなかった。
それに。
もし2人の姿を見つけてしまったら………
その場で、泣き出してしまいそうで。
『さよ〜、ほんとに今日来ないの?』
「うん……ごめんね。みんなで楽しんで!」
『ん〜わかったよー。来年はみんなで行こうね。』
「うん、楽しみにしてる。」
『なんかわかんないけどさ、元気出してね!』
「……ありがと。茜とみなみにも謝っといて。」
『うん。じゃあ、またね。』
「ばいばい。」
家の電話を切り、受話器を置く。
なんとなく、ぼんやりと電話の前で立ち尽くしていると、
「じゃあ、母さん仕事行ってくるから。」
私の後ろをお母さんが私のほうを見ることなく通りすぎていく。
私はそれを目で追って、玄関で靴をはく背中にただ小さく、
「………うん。気をつけてね。」
と言うが、お母さんは答える様子はない。
結局それ以上何も言うことなくお母さんはドアを開けて出ていき、そのあとにはただドアがゆっくりと閉まる音と、時計の針の音だけが残された。
私はゆっくりと電話を離れ、階段を上って2階の自分の部屋へ入る。
ベッドに飛び込み、仰向けで寝転がって天井を見つめると、ゆっくりと目を閉じた。
今日は部活も早く終わったし、疲れていないはずなのだが、ひどく身体が重い。
泥にいつまでも沈んでいくような感覚で、まぶたも重く、開く気配がなかった。
うまくいかない。
何も、何もかも、うまくいかない。
なぜか、あの歌が浮かぶ。
口から、旋律が流れた。
「…………『きっと君は知らない
この世界の大きさも
あの太陽の熱さも
宇宙の広さも
そして
君を想う僕の今を』…………」
彼がいつも歌っていた歌。
なぜかいつも同じところで止まる歌。
彼が歌っているのを聞いたのは、確かあの球技大会のあとだった気がする。


