「……あの、今日、ちょっと涼しいほうでよかったね。」
「ん?ああ、そうだね。」
飯島の声にびくりと身体を震わせて、僕は慌ててうなずいた。
さっきから全然集中できない。
僕は横目でチラリと飯島を覗き見た。
飯島は浴衣を着ていた。
白地の浴衣に紫と紺の花の模様が描かれていて、シンプルだけど大人っぽい浴衣。
長いさらさらの髪は、透明な朝顔のついたかんざしで留められてアップにしていた。
衝撃だ。衝撃映像。
いつも髪を下ろしていて、体育のときに2つ縛りにしているくらいしか見たことはないのに。
でももっと僕の心臓を攻撃しているのは別だった。
飯島が。
あの飯島が………
「あの、さ。」
「?」
「眼鏡、なくていいの?」
「あ、えっと、うん……。
今日は…コンタクトに、してみた……。」
少し照れたように笑う飯島に、また言葉を失って目をそらしてしまう。
ああああああ、嘘でしょ。
ただでさえ浴衣。
それに加えアップにした髪。
最後の一発に、コンタクト。
まだ中学2年生のモテない男子がダウンするには、十分すぎる威力だった。
女子っていうのは、こんなに変わるものなんだ………。
妙に感心して、無意識のうちに何度もうなずいてしまう。
「どうしたの?」
そう聞いてくる飯島を見て、いつもは銀縁眼鏡の向こうにあった二重の澄んだ瞳をまともに見つめてしまったことを後悔する。
ほてってきた頬を隠すようにまた前を向いて、
「なんでもないよ。」
と答えた。
祭をやっている神社に着いたときには、いつの間にかまわりは暗くなってきていて、通りに置かれた屋台の黄色い電気の明かりと、赤い提灯の明かりが入り混じった鮮やかな空間がそこに広がっていた。
「おぉ〜………」
「わあ………」
思わず声を合わせて感動してしまい、僕と飯島は顔を見合わせて笑う。
「ふふ、お祭りっていくつになっても楽しいよね。」
「ほんと。屋台の食べ物って全部美味しく感じるんだよね〜。」
さっきまでの緊張もほどけて、僕は飯島の顔を見て笑うことができた。
飯島もそれに安心したようで、いつもの穏やかな微笑みを浮かべて屋台を見つめる。
「何か絶対まわりたい屋台とか、ある?」
僕がそう聞くと、飯島は顔を輝かせて近くの屋台を指差し、
「私ね、金魚すくいとか、水風船とかやりたい!」
とはしゃぎはじめて。
僕はその飯島を素直に、かわいいなと思ってまた笑った。


