夕日が沈みきって、しかしまだ青くぼんやりと明るい程度の時間帯。
夏の暑さも夕方になれば多少は和らぐ。気がする。
僕はその中を、今日は自転車を使わずに、ゆっくりと歩いていた。
いつもは買い物帰りのおばさんや学校帰りの学生たちしかいないこと通りも、今日は親子やカップルがぱらぱらと目立つ。
その多くは、浴衣や仁平を身につけていた。
という僕は、今日は膝下までのジーパンにTシャツ。
仁平は母さんに勧められたけど、父さんの仁平はまだ僕には大きくて諦めた。
まあ、この格好のほうが楽だから、そのほうがいいのだ。
はじめは軽かった足取りも、飯島の家に近づくにつれて段々と重くなってきたような気がする。
飯島に会うのを気まずいと思っていたことを、祭にうまく誘えたことにテンションが上がって忘れていたが、会ってうまく話せるだろうか。
今日はまだ人生初の出来事が起きるというのに。
そんなふうに思っている間に飯島の家に着いたので、玄関前の階段を駆け登って思い切ってインターホンを押す。
家の中でチャイムが鳴り、少しして飯島のお母さんの声が聞こえてきた。
『はーい。ちょっと待っててね。』
しばらく待っているとドアの鍵が開く音がして、飯島のお母さんが顔を出す。
「わざわざ迎えに来てもらってありがとう。」
「あ、とんでもないです。」
にっこり笑ってそう言うお母さんにぺこりと頭を下げると、お母さんは口の横に手を当てて、小さい声で僕に耳打ちする。
「夏美ったら、先週からずっとそわそわしちゃって。気に入る浴衣を探すのに苦労したのよ。」
それになんだか照れ臭くて、でも楽しみにしてくれている飯島がうれしくて、僕は中途半端に笑った。
お母さんはその僕にうれしそうに笑って、ドアを手で持って開けたまま振り向いて、飯島を呼ぶ。
「夏美ー!早くしなさーい。」
「はーい。」
遠くから飯島の声と慌ただしい足音が聞こえてきて、廊下の先から飯島が現れた。
「泪くん、ごめんね。待たせて。」
飯島の姿を見て言葉を失う僕に、またお母さんがうれしそうに笑った。


