夕暮れのオレンジ色の光りに照らされた教室に、気持ち良いとは言えない生暖かい風が吹き抜ける。

ここぞとばかりに鳴くセミの声がうるさく、しかし教室の静けさを強調するかのように響いては消えて行った。











「………………。」


僕はそこまでをノートに書き足して、シャーペンを置いた。


さわかな風が髪を揺らすのを感じて、すぐ左にある大きな窓へと目を移す。



窓際の一番後ろの席は、最高に心地好い。


いつもくじ引きで決める席順のわりに、なかなか良い席を当てたもんだと自分でも思っている。



どこのクラスなのか、体育をやっている生徒たちと、その生徒たちに大きな声で何か叫ぶ先生の声が響いてきていて。


ああ、そういえば明日は1限目から体育だったな、なんて思い出して、小さくため息をつく。




「お、もうこんな時間か。
じゃあ今日の授業はここまでー。

三宅、ぼーっとしてないでノートとっとけよ。」


そんな先生の声に顔を教室の前へと向け、こっちを見ている数学の田中先生に小さく頭を下げる。



「起立。礼。」


学級委員の飯島さんの声にみんなが立ち上がって、礼、なんて言葉意味ないんじゃないかと思うくらい適当にばらけていくクラスメイト。



同じように立ち上がっていた僕もまた椅子に座り直して、机の上に広げた教科書やらを机の中へとしまっていく。


そこで一度手を止め、書きかけのノートをぱらぱらとめくる。


数学のノートではない。

そういえばさっきの授業の……と思って黒板を見上げたときには飯島さんが黒板を消しはじめていて、あきらめる。


このノートは、大切なノートだ。


たくさんのお話が詰まっている。




「みーやけー。
飯食いに行こーぜ。」


間延びした口調で名前を呼ばれて横を向くと、この学校で一番仲の良い友達、中野が財布を振りながら立っていた。


「ん。ちょっと待って。」


短くそう答えてノートを机にしまうと、机の横にかけた鞄から財布を取り出して、立ち上がった。