俺は慣れない手付きで玉ねぎをみじん切りに刻みながら、慎の方をチラリと見た。

「…偉く慣れてんな」

フライパンにバターを乗せ、慣れた手でバターを広げる慎に向かってボソリと呟いた。

「…母さんが飯作ってくれること、滅多にないからな。あの人、忙しいから」

「やっぱ、寂しくなったりすんの?ほぼ一人暮らし同然じゃん」

「いや、全然。寧ろ、好きなことが出来るから今のままで充分いいかな」

まあ、この家は一人じゃ広すぎるけど。

慎は「ははっ」と笑いながらそう続けた。

「てか、時ちゃん余所見ばっかしてると手を切るぞって…時ちゃあああああああん!」



「いや、マジで悪い。だから俺は全く料理は出来ないって言ったのに」

「でもさ…ここまでざっくり指を切らなくてもいいじゃん…」

「まな板もろとも玉ねぎを切る勢いで切ってたからな」

慎が俺の指に絆創膏を巻き終え、立ち上がる。

「仕方ないな…。時ちゃんはフライパンに乗せていくハンバーグをひっくり返してって」

「おっけー。じゃ、出番来たらまた呼んでー」

俺はキッチンのカウンター越しから慎をじっと見つめる。

…楽しそうな顔しながら料理するんだな。

やっぱ、ずっと料理してたら料理が好きになんのかな。

「あ、あのさ…時ちゃん」

「ん?」

「そう…じっと見るのやめてくれない?視線がすごく痛いから」

「いやー、すっごい楽しそうな顔しながら料理するなーって思ってさ」

「料理が好きだからな」

「将来、料理人にでもなんの?」

「いや、料理人とかなるとさ、責任とか…色々あるじゃん。だから俺はあくまで"趣味"で料理するつもり」

「あー、そうだな。結構大変そうだもんな」

慎がうんうんと顔を上下に振った途端、突然インターホンがリビングに鳴り響いた。

「あいつら来たのかな。悪いけど時ちゃん、頼む」

「あいよー」