(母さん!)


ハッとして目を開けると、見慣れた天井が見え、ここが自分の部屋であることに気がつくのはそう時間はかからなかった。


視界の片隅に自分の手が見えて、天井に伸ばしていることに気がつき腕をゆっくりと下ろす。


(……夢?)


しばらく時間がたち、頭が覚醒したところで今まで見ていたのが夢だったことがわかった。


最近よく、同じ夢を見る。


回りは真っ白な世界で、その中に一人だけ女の人が立ってる。


でも顔はよく見えなくて、声は聞こえてくるけど、言ってることも途切れ途切れで細く最後まで聞こえない。


なにか大切なことだと思うんだけど、思い出そうとすると頭が痛くなる。


「そろそろ起きようかな」


考えるのを止めて起き上がり、ゆっくりベットから降りた。


クローゼットに向かって、中から袖無しの襟の付いた白い服と、ひざ下丈の黒いズボン(練習着)を取り、素早くそれに着替えた。


そして、ベッドの方へ行き、横に立て掛けてあった剣を取ると腰に巻いてある革のベルトに提げ、外に出ようと玄関に向かった。


目を擦りながら、のろのろと薄暗い玄関の電気をつけると、腕を組み、壁にもたれ掛かって目を閉じている男がいた。


「か…魁?」


男に近づき恐る恐る声をかけると、閉じていた瞳をゆっくりと開け、こっちを見た。


「憐、おはよう」


魁は僕の近くに来て、跳ねている髪を軽く触ると、ふわりと笑った。


魁は滅多に笑わない。


と言うよりも僕にしか笑わなくて、とても綺麗な容姿だから道ですれ違う人が声をかけるけど、睨んだり、無視したり、とにかく無愛想だったりする。


でも自分だけには笑ってくれて、それがとても嬉しい。


僕にとって、誰かが僕のためだけに何かをしてくれるということが無かったから。


「うん、おはよ」


僕も魁に満面の笑みを返した。


しかしふと、一つの疑問が脳内をよぎる。