橙の夕日が街を染める。

都心のオフィス街にひっそりと佇む洋館にも、その橙の光はまっすぐに差し込んでいた。

もうすぐ日がくれる。

「あとは俺の部屋だけだ…。でも…まぁこの部屋は俺以外は入らないし、明日にしよう…。」

自室の扉の前、疲れきった顔をして千早が部屋を見渡す。

部屋の中は乱暴に開けられたダンボールや、保護用のプチプチやらが散乱している。

千早はぼんやり部屋を見渡し、明日どのように片付けるかを考えていた。

しばらく考えると疲れているのか、目をパチパチさせ、ゆっくりとベットに向かい倒れこんだ。

橙の夕日は、今、ゆっくりと長い闇に包まれた世界を照らそうとしている。

しかしそれは千早の知らない世界。

その世界が太陽の光に満ちる時、千早の世界は暗闇に包まれて月の光が差し込むのだ。

太陽と月。

それは生き物が生まれるずっと昔からそこにあり、人類が誕生してからもなおその高い場所から人類一人一人を照らしてきた。

だから月と太陽が見てきたものが真実で、常識なのだ。

つまり、ほんの数十年程しか生きる事の出来ない「ヒト」が考える「常識」なんて、ただの「思いこみ」にすぎないのだ。

ゆっくりと姿をあらわした月が、穏やかにそう語っているように見えた。