大都会東京の片隅に、近代的な雰囲気に似合わない小さな洋館が佇んでいる。

まるで遠い昔、まだ西洋の文化が日本にやってきたばかりの頃からそこにいるかのように。

まわりをビルに囲まれており、たいして敷地も広くないため、そこはいつも暗い…はずなのだが…何故かそこだけは常に太陽の光が差し込んでいた。

そこは明らかにまわりの雰囲気に合わなかった。

ガラス張りで高々とそびえるオフィスビルと、そのビル程大きくはないがそこそこ大きな新築ビルにはさまれている。

前の通りを行きかう人々は、東京に流れる時間の波に押され、その洋館を目に止める人はほとんどいなかった。

「ちょっとぉ!運ぶの手伝ってよ!」

正面玄関を入り、目の前に広がる豪奢なエントランス。

その広いエントランスの左側には二階へと繋がる階段がある。

大理石でできた階段はワインレッドの絨毯がしかれ、そこはまるで深夜12時になったらシンデレラがかけてきてガラスの靴を落として行きそうだった。

その階段を登った先の一室から少し苦しそうな女性の声が聞こえる。

「うーん。やっぱり荷物少なくしようかなぁ。」

うんしょと大きなダンボールを降ろすと、その女性は閉じていたダンボールの口をあけて中身を整理し始めた。

その部屋はどうやらその女性の部屋らしく、ピンク色のベットカバーやアンティーク調のランプなどで整えられている。

「うん!こんなもんか!まあ必要になれば取りに戻ってくればいいしね!」

そう言うと女性は健康的な足を使ってひょいっと立ち上がると、少し膨れた顔をして壁の方を見つめた。

そして何かを言ってやろういう顔をして、隣の部屋に向かい、その部屋のドアを少し乱暴に開けた。

「ちょっと!お姉様が手伝ってって言ってるんだから手伝ってよ!もう終わっちゃったけどさぁ!!」

怒りにまかせたような、でも少し拗ねたような声が部屋に響いた。