拙者は重蔵を部屋から閉め出し、兄上と二人きりで対談した。


「休暇中にお前が来るとはな…何の用だ」


少し乱れた髪が、どことなく妖艶に首へ落ちる。

紺色の着物をだらしなくはだけさせ、兄上は煙管を吹く。


「…拙者、幾日か程前に…海へ参ったでござる」

「…!霧助…お前は…」

「うぬ、拙者は海が大嫌いでござる。主に誘われ、致し方無くお付き合い致した」

「そうか…」


拙者が海に行ったと申せば、兄上は少し驚いた様子を見せた。

こうして無事だと悟ると、その逞しい体を壁に寄り掛からせ拙者を見つめる。


「あの日の…兄上を思い出し申した…」

「…あの日……あぁ、お前が溺れたあのおぞましい試練か…」

「拙者、兄上が申されていた通り、守るべき主を守る、恐怖に打ち勝つ勇気を出せたでござるよ」

「ふ…そうか、流石だ…霧助」


兄上に褒められるとどこかむず痒い気分でござる。

微笑む兄上は、以前のような優しさを帯びた瞳で拙者を見た。


「お前も大きくなったな…」

「そりゃあ…拙者ももう二十七でごさる」

「くっくっく…そう、だな」


寝起きだったのか…前までの、男色染みた兄上ではない。

そう言えば昔は、兄上も長い髪をしていたが今はすっかり短く切っておるな…。


「なんだか、懐かしゅうござりまする」

「あぁ…これなら、春之助も呼べば良かったかな…」
「うっ…春之助は…その…」

「ははっ…そうだったな、お前と春之助は不仲だった」
「…そ、それは春之助が勝手に…」

「…どれ、霧助」
「…?」


煙管を置いて、兄上は拙者に近寄ってきた。


「一つ、面白い話をしてやろう」


形の良い唇を、ニィと笑わせて、兄上は語り始めた。