「組頭!ここは我々が…」
「ならぬ!御主達は多少なり傷を負わせてしまった…海水に当たれば悲惨な結果が待ち受けておるぞ!」
「しかし…!組頭は…!」


止める部下を無視して、拙者は海へ飛び込んだ。

冷たく拙者を覆うあの暗闇、塩辛い負の味、体から力が抜けていく…!

やはり…拙者には、無理でござる…!




『守りたい者を目の前で失う恐怖、それに打ち勝つ事ができるのは、助ける為の勇気なんだ』




―――兄上…。





『霧助!! 助けて…!!』




―――幸姫…!!




「掴まって下され、幸姫!!」

「ぅ…ゲホッ…き、りす…!!」



精一杯伸ばされた、幸姫の細い腕を掴んだ。

決して離さぬように、力一杯その可憐な体を抱き寄せて岸まで泳ぐ。


そう遠くはない…あの憂いに満ちた政幸殿の表情が、はっきり見えるのだ…!

今の拙者になら、出来る…!!


「組頭!掴まって下さい!」
「さ、こちらに…!」
「着替えを今お持ち致します!」

「霧助!! ありがとうっ…お前は、命の恩人だ…!!」


岸に幸姫をあげて、なんとか拙者達は助かった。

急遽部下に着替えをもらい、風邪を引かぬ内に屋敷へ戻る事に。


「…きりすけ…」
「…如何なされた…幸姫……」

「あ、りがと…」
「…うぬ…」


拙者は幸姫を背負い直し、沈む夕陽を背に屋敷へ戻った。