戦国乱戦…やはり、神代家のところにも戦の報せがきたか…。

政幸殿は険しい表情で文を読まれておられる。
送り主は、敵軍の武家、芳垣家当主。

抜群の体力と馬鹿力が有名な厄介者だ。


「兄上は何を読んでるの?…恋文?」
「恋文であのような険しい顔をするわけないでござろう。挑戦状でござるよ」
「ふーん…」


影から見守る拙者の背後から覗き込む幸姫。
妹君なりに、兄君が心配なのであろう。


「戦は嫌い、みんなボロボロの布切れみたいになって帰ってくるもん」
「酷い言い様でござるな」
「だって本当のことだもん!兄上も霧助も、屋敷のみんなも怪我して帰ってくるもん!!」
「幸姫…」


今にも零れ落ちそうな大きな涙をこらえ、幸姫は涙声でそう怒鳴った。

確かに、屋敷の当主である政幸殿はともかく、忍である拙者もまた戦に出なければならぬ。
一人皆の帰りを待つ幸姫には、辛い一時であろう。


「幸姫、拙者達は必ずや生きて帰りまする」
「…本当に?」
「うぬ、約束致そう」


拙者は幸姫の肩を抱き、慰めるように頭を撫でた。


「幸姫の申す、ボロボロの布切れになろうとも、必ずや生き延び、この屋敷に戻って参りまする」
「クスッ…約束だよ!」
「うぬ」


ようやく、いつもの幸姫の笑顔が見れた。

やはり、悔しいが幸姫には泣き顔より笑顔が似合う。
これ程までに、無邪気な笑顔が似合う姫君は他にいようものか。


………って、拙者は何を血迷っておるか!
このお転婆姫にはいつも振り回されてばかりいると申すのに!


「どうしたの、霧助」
「な、何でもござらぬ!!」


このお転婆姫を、可愛い等…きっと拙者は疲れておるのだ。

今日は早く休むようにしよう。
先の戦も、決戦が近い…気を引き締めなければ…。