『…気が付いたか、霧助…』

『…あ、に…うえ…?』

『良かった…本当に…お前が、無事でっ…』

『…兄上…泣いて、いるのですか?』

『…っ、馬鹿…これは、海水だ…ハハハッ、しょっぱい、な…』

『申し訳、ございません…俺……俺…!』

『良い、何も言うな…怖かっただろう、辛かっただろう』

『うっ…ふ…あ、あにうぇ…!』

『よしよし…もう大丈夫だ』

『どうしよう…俺、海が…怖い…!忍…失格だよぉ…』

『霧助…よく聞け。怖いもの等、誰しもあるものだ』

『…ま、まことでございますか…?兄上にも…?』

『あぁ、俺もお前が目の前で溺れていく様を見て、とても怖かった…。だが、その恐怖に打ち勝つ為の"勇気"…それさえあれば、怖いもの等何てことはない』

『ど、どういう…』

『実を言うとな…俺も泳ぎはあまり得意ではない。だが、溺死寸前のお前を放っておく訳にはいかなかった。自分も溺れるかもしれない…そういった恐怖を、俺はお前を助けたいという勇気で乗り越えたのだ』

『勇気…』

『そうだ、守りたい者を目の前で失う恐怖、それに打ち勝つ事ができるのは、助ける為の勇気なんだ』

『……それでも、俺は…』

『お前も未熟と言えど忍…いつか守るべき主が現れ仕えていく筈。その時、お前の勇気が試される』

『……………』

『霧助、長には俺から言っておくから…そう気を落とすんじゃない』

『…ありがとう、兄上…』

『…ん、ほら…おんぶしてやる、掴まれ』

『…!うんっ!!』





―――兄上、拙者は…拙者は……!




「ゲボッ、ガッ…ぎ、きり…す…!!」

「幸、待ってろ!! 俺が…」



「お待ち下され、政幸殿!!」



拙者、乗り越えてみせまする!!