日も暮れ始めた頃、拙者は重なって倒れている部下の山頂から、政幸殿達に呼び掛けた。


「政幸殿、幸姫!日も暮れ始めたでござるよ、そろそろ屋敷へ戻らねばなりませぬ!」

「おぉ、そうだな!今行く!…幸、行くぞ」
「待って、兄上…私の簪…海に落としちゃった…」
「何、簪?仕方のない妹だ…簪なら新しいのをまた買ってやる、さぁ帰るぞ」

「ダメ!! あの簪は、母上の形見なの!見付けるまで私、絶対に帰らないんだから!」
「母上の…?幸、どうしてそんな大事な物を身に付けて来たんだ…」

「…身に付けて来ないと、母上も一緒に来たことにならないもん…」
「幸…。わかった、俺も一緒に探そう」
「兄上…!ありがとう!」



……何やってるでござるか、あのお二人は…。

拙者、一刻も早くこの場から抜け出したいのだが…。



「ぅ…く、組頭…」

「ぬ?何だ、重蔵」

「そ、そろそろ…勘弁して、下さい…」
「本当に…申し訳、ございません…でした…」
「反省、しております…ので……」

「何だ、はっきり申さぬか、あぁ?」

「「「申し訳ございません!! お許しを、組頭!!」」」

「…全く、二度とあのような真似をするではござらぬよ?」

「はいっ、確かに肝に命じます!」
「もう、二度とからかいません!」
「ですから、組頭…降りて下さい!」


ボロボロの部下から飛び降り、拙者は三人を見下ろした。

確かに、反省しておるな。


「もう良いでござる、身形を整えよ」

「ありがとうございます…」
「本当に、すみません…」
「うぅ…節々が痛い…」

「何!? だ、大丈夫でござるか?急所は外した筈でござるが…どこか痛むか?」

「(この方はいつも肝心な所が甘い…)」
「(部下想いだと思えばあの変貌ぶり…)」
「(屈辱的な事が余程堪えるのだろうな…)」

「…?何でござるか、その目は…」

「「「いえ、何も…」」」

「そ、そうか…」


さて、政幸殿と幸姫は一体何を…?