「嫌でござる!! 拙者は反対でござりまする、政幸殿!!」

「しかし霧助…もう海は目の前だぞ」

「どうしちゃったの、霧助!」


拙者はお二人に引きずられながらも、嫌々と首を振った。

幸姫はともかく、鬼武者の政幸殿の力はやはり強い。

ズルズルと海の方へ連れていかれる…!



「拙者…拙者…っ海が大ッ嫌いでござる!!」

「えぇぇ!? 何で、気持ちいいじゃん!」
「お前がそこまで嫌がるなんてな…珍しい」

「離して下され!! 拙者は屋敷へ戻りまする!」
「護衛はどうするのよ!!」
「部下に任せまする!!」
「なにそれ~っ!!」


拙者は海が大の苦手、泳げぬ上に恐ろしい思い出があるのだ!

忘れもしない…里の長から受けた、あの仕打ち…!



「嫌でござる~っ!! 帰りまする~!!」

「ダメぇ!! 一緒に来て!」
「泳ぐ訳ではないのだ、来るだけ来ないか?」

「絶っ対に嫌でござる!!」


「もう!何でそんなに海が嫌いなの!?」

「そ、それは…!」


拙者はしばし口を濁すと、小声でお二人へ語らいだ。



「拙者…昔、里の長から海での訓練を受けさせられたのでござりまする」

「昔って、どれくらい?」

「拙者がまだ八歳の時でござる…!長は沖にある船から拙者を突き落とし、泳いで岸まで戻れと申された…」

「ひ、酷いな…」

「拙者…唐突過ぎて…脚をつらせて…溺死しかけた上に鮫にまで襲われかけ申した…」

「お前…よく無事であったな…」
「どうやって助かったの?」


「…拙者の兄上が咄嗟の判断で飛び込み、拙者を岸まで連れて泳いで下さった…」



その時ばかりは、兄上に感謝致した…。