「あ…霧助…」


騒ぐ二人の姫を押さえていた政幸殿が、拙者の存在に気付かれた。

その呟きに幸姫は驚いた表情で拙者を見る。

傷だらけの顔には、涙の跡とうっすらと血の筋があった。


「霧助…あ、あの…私…」
「…………………」


黙っている拙者に、幸姫はもごもごと口を濁す。

勝手に抜け出し、宴を台無しにしたことを反省している御様子…。

拙者は、海よりも深い溜め息を吐いた。


「全く…何をやってるでござるか…」

「お…怒ってないの…?」
「無論、怒っておりまする。しかし、今は幸姫を叱るよりも先に、傷の手当と其処らの割れた食器等を片付けなければなりませぬ」

「…ごめん…」
「謝られるのなら、拙者でなく政幸殿と晁子殿と八朗殿にして下され」


いや、本来なら今座敷にいる皆に謝らなければならぬ。

楽しんでいた所を突然の取っ組みあいで中断されたのだ。


「……………」
「幸姫、誠意を見せてこそ、神代の姫君でござるよ」


唇を噛み締め、幸姫は一粒の涙を落として口を開いた。


「みんな…ごめん、なさい…」


頭を下げた幸姫の様子を見て、皆の者は顔を見合せ互いに笑った。


「姫様!俺達は気にしていませんぜ!」
「さっすが、神代の姫君は責任感のある方だ!」

「ふん…まぁ、許してあげる」
「こら、晁子。お前も口が悪かったし手をあげたんだ、ほら…」
「あ、兄上…!? …~っ、わかったわよ!あたしも言い過ぎたわ、…ごめんなさい」

「幸、立派だぞ…それでこそ、俺の妹だ」


皆に褒められ、幸姫はポカンと口を開く。

拙者はその様子に、よしよしと一人頷いた。




その後、改めて神代と峯本の交遊宴が始められた。