「峯本家が、この屋敷へ来る」


政幸殿のその一言で、幸姫は持っていた茶碗と箸を落とした。

「ちょ、幸姫!」

拙者は慌ててその二つを取った。

危うく米が無駄になるところであった…危ないでござるな!


「兄上…峯本家って…」

「うん…勿論、晁子もくる」


拙者はハッとして、慌てて両耳を塞ぐ。

政幸殿も、無表情で拙者と同じように耳を塞いだ。


「えぇぇえぇぇぇぇーーーッ!!!?」


屋敷を揺らさんばかりの大声が、座敷に響き渡る。

耳を塞いでもこの五月蝿さ…やはりこの姫、恐ろしい。


「な、何で!? 何で呼ぶの兄上!?」
「……………」

「政幸殿、もう耳から手を外されて宜しいでござるよ」

「ん?あ、あぁ」


拙者が伝えながら耳から手を外す身振りをすると、政幸殿はようやく返事をした。


「兄上!もう晁子とはお見合いしないんでしょ!?」

「するものか、今回はただの宴だ」
「う、宴…?」


そういえば、毎年この時期になると宴を致すな。

交遊の為だと申しておったが…今回はあの峯本家か…。

これは、厄介でござるな…。


「意味がわかんない!何で宴なんてするの!?」
「俺もよくわからん、交遊為だと父上が申していた」

「だからって、何で峯本家なのよ~!!」


あー、始まったでござる。

拙者は食事を中断させ、いつものように幸姫に言い聞かせる作業に入った。