静かだ、夕暮れ時なのにこんなにも静かなのは、何故だ?
拙者は屋敷の廊下を歩きながら頭を捻った。

…あぁ、そうか…幸姫の姿が見えぬからか…。


「……………って!あの姫もしや!?」


まさか、一人で御嵬寺に…?

…有り得る、というか、それしか有り得ぬ。


「…はぁ~…ったく、何でそういつも無茶苦茶な事を…」


拙者は致し方無く御嵬寺へ向かった。

辺りは既に暗くなりつつある。


そう遠くにはないから、すぐに辿り着いた。

御嵬寺の鳥居の下、階段上に幸姫は座っていた。
拙者は呆れた顔でその姿をしばし見つめ、駆け付ける。


「幸姫!全く貴女という御方は…」
「あっ…霧助!やっぱり来てくれたんだね♪」


全く悪びれた様子を見せずに、幸姫は拙者に抱き付いた。

拙者はその額を指で小突くと、べりっと体を引き剥がす。


「少しはこちらの身にもなって下され、心配致したでござるよ」
「えへへ…だって、こうでもしなくちゃ霧助来てくれないんだもん」

「…はぁ…全く…」

「ね、せっかく来たんだから、肝試ししようよ~」
「来たって…幸姫が半ば強制的に呼び寄せたのでござりませぬか!!」

「いいからいいから♪」


楽し気な様子の幸姫は、拙者の忍装束を引っ張り寺の中へ誘い込んだ。

やはり、禍々しい雰囲気は相変わらず残っておる。

なのに、寺自体はあちこち朽ち始め、不気味さが更に磨きかかっておる。

非常に厄介でござるな。
まさか、またこの寺に来ようとは…。


「霧助~早く~」

「あぁ、もう!勝手に離れないで下され!!」