「ねーぇ、霧助~♪」
「…い、如何なされた、幸姫…」


甘えた幸姫の声かけに、少し警戒する拙者。
この声色を出す幸姫は、決まって良からぬ事を申す。


「あのね、御嵬寺…ってお寺、知ってる?」
「御嵬寺…でござるか?」


随分懐かしい名前だ、しばし前に兄上達と訪れた寺ではないか。


「一応知っておりまする」
「本当に? じゃあさ、一緒に行こうよ!」
「はっ? 突然何でござるか?」


拙者の問い掛けに、幸姫はふっふっふっ…と怪しく笑い、両手を挙げた。

…一体何の儀式でござるか?雨乞いでござるか?


「なんと!その御嵬寺では、夜な夜な幽霊がでるって噂なの!」
「……………」
「…ちょっと、少しは反応してよ」
「阿呆でござるか?」
「そういう反応じゃないっ!」


またこの姫は何を馬鹿なな事を申すか…。
そういったおかしな噂を、一体どこから入手しておるのだ。


「あまりに阿呆らしくて呆気にとられており申した」
「阿呆っていう方が阿呆なのっ!とにかく、今夜その御嵬寺に肝試しに行くわよ!」
「はぁ?また何を無茶苦茶な事を…。拙者は反対でござる」

「…はっはーん…霧助、怖いんだ」
「…挑発のつもりでござるか、それは?」


幸姫の馬鹿にするような態度に、思わず反対してしまう。

挑発とわかっていても、少し苛ついてしまうのは、幸姫のその憎らしげな表情が原因でござる。


「御嵬寺にはもう、人が住んでおりませぬ。手入れもされておらぬ故あちこちにガタがきており、忍び込むには危険が伴いまする」

「だって、霧助が守ってくれるんでしょ?」
「…平然とした顔で何を申されるか…」

「一度行くって決めたら行くの!」
「はいはい、話はそれだけでござるな。拙者は暇ではござりませぬ、さぁ幸姫もその辺で遊んで下され。…拙者の部屋以外で」


気合いを入れる幸姫を部屋から追い出して、拙者は障子を閉めた。


「…もーっ!霧助バーカ!」
「馬鹿と申された方が馬鹿でござるよ、幸姫」