『お主の名は、何と申す』

『拙者、日向霧助と申しまする』

『そうか、では霧助よ』

『はっ…』

『お前に、次期当主の政幸を護る事を命ずる』



―――政明殿…。



「…!」


ガッ!!


「きゃっ…!」
「幸姫…?」


忍び寄る手に気が付き、目を閉じたままその手を取った。

聞こえた悲鳴に、うっすらと目を開ける。
拙者のすぐ目の前で、痛そうに顔を歪める幸姫がいた。


「…何の真似でごさる」


その細い手を離さぬまま問い掛ける。
幸姫は抵抗を止め、ばつが悪そうに答えた。

「霧助の寝顔…初めて見たから…」
「…拙者の、寝顔…?」

「霧助、寝惚けてるの?手、痛いよ」
「…………」

拙者は静かにその手を離した。

慌てて飛び退いた幸姫は、うっすら赤くなった手を擦っている。

実に、か弱き手だ…危うく折ってしまう所であった。
拙者は黙って立ち上がると、警戒する幸姫を抱き上げた。


「なに、ちょっ…降ろしてよ霧助!」
「……………」

「降ろしてったら…きゃっ!!」


申された通り、降ろしたでござるよ。


拙者は布団の上に幸姫を落とし、部屋の端へ寄った。

そして壁に寄りかかり、再び目を閉じた。