「ねー、霧助ー」
「何用でござるか、幸姫」


忍具の手入れの最中に、幸姫は拙者の所へ参られた。

小走りで駆け寄る姿は愛らしくも恐ろしい。
先日、突然飛び付かれて腰の骨を痛めたのが大きな原因。

拙者は構えつつも、幸姫を迎えた。


「あのね、忍術見せて♪」
「なんと、忍術とな」


どうやら飛び付きはしないようだ。
緊張を解いて、幸姫に向き直る。


「そう!バーンって消えてみせて!」
「幸姫は拙者に爆死しろと申すか」


擬音だけでは肝心の内容は伝わらぬ。
幼さの残るその顔で、無邪気に恐ろしい事を申すのはやめて頂きたい。


「幸姫…幸姫が思っておられる程、忍は万能ではござらぬよ」
「えーっ!うっそだぁ!!だって一昨日、隠した筈の手裏剣をすぐに見付けちゃったもん!!」
「やはり幸姫の仕業であったか!!そもそも、それは忍術ではござらぬ!」
「え?そうなんだ」
「忍術を舐めておられるのか」


一つ足りぬから探すのに苦労したでござるよ!
一式まとめてではなく、たった一つだけを隠す辺りが無意識の悪意を感じる…。


「じゃあ、どんなのが忍術なの?」
「どんなのが…と申されても…」


そんなに興味が湧くものなのか、忍術とは…。
覚えてしまえばどうということはないのに。


「仕方ないでござるなぁ…一回だけでござるよ」
「やったぁ♪」


拙者は、懐から紐を取りだし指に巻き付けた。
幸姫は、それを食い入るように見つめている。


「…終わりでござる」
「…は?もうおしまい?」
「うむ、おしまいでござる」
「紐を巻いただけじゃん!」
「忍法指かけの術。立派な忍術でござる」
「つまんなーい!」
「忍術とは、そういうものでござる」


幸姫はぷりぷりと怒って去って行った。


「…忍がそう簡単に忍術を晒す訳ないでござろう」


拙者は一人、忍具を手入れしながらくつくつと笑った。