「い、いらっしゃいませ…御二人様で、宜しいですか?」


ひきつった顔の宿屋の店主。
無理もない、泥まみれの客が二人来れば、驚きもする。

拙者と幸姫は、城下町に着いて宿屋に泊まることにした。
日も暮れておるし、政幸殿には夜叉丸を通して伝達しておるから大丈夫でござろう。


「幸姫、拙者は着替えを城下町にて調達致しまする。その間に湯あみに入られて下され」
「はーい…」


頭に大きなたんこぶを作った幸姫は、不貞腐れた様子で返事を返した。

…ぬ? 何故幸姫がたんこぶを作っておるかと?
なに、あまりに拙者の頭や背中を叩くので、一発お見舞い致したら思いの外痛かった御様子。

おかげで今は大人しゅうござりまする。


拙者は店仕舞いしかけた着物屋で、質素な着物を買った。
あの姫は文句を言いそうだが、その時はまた拳を見せれば良いな。

自己解決して着物を宿屋に持ち帰った。

宿屋の女人に幸姫の着物を渡し、拙者も湯あみに入った。




「幸姫、もう上がられ……な!?」
「き、霧助…」


湯から上がり部屋に来てみると、なんと…布団が一式しか敷かれておらぬではないか!
おまけに、枕は二つと致した!

戸惑う幸姫、拙者もこれには狼狽えた。


「あの店主、何を馬鹿な勘違いを…!」
「ど、どうしよう…」

「どうって、決まっておりまする!幸姫は布団で寝て下され、拙者はその辺で雑魚寝致しまする!」

「だ、ダメだよ風邪引いちゃう!」
「幸姫、拙者は元より忍でござる。雑魚寝ごときで風邪等引きませぬ」


でもでもと喚く幸姫に言い聞かせ、その場は何とか収まった。

いくら拙者でも、こればかりは譲れませぬ。
明かりの消えた部屋で、幸姫の寝息を聞くと、拙者も目を閉じた。