「…ねぇ、霧助…」
「如何なされた、幸姫」


ジャリジャリと、未だ森の中を歩む拙者。
背中に、幸姫を背負わせて。


「どうして霧助は、神代に仕えたの…?」
「…何を突然申されるかと思えば、そんなことでござるか…」
「そ、そんなことって何よ!」
「あぁ、こら、暴れないで下され、落としてしまいまする!」


ポカリと頭を叩かれ、痛くもないのによろめいた。
よいしょと幸姫を抱き直し、静かな森の中を進む。


「拙者が神代に仕えたのは、自分の意志からでござりまする」
「…どうして?」

「当時、まだ幸姫がお産まれになる前に、拙者は多くの命を奪いもうした。罪と血で汚れた拙者を、貴女のお父上が拾って下さった」

「父上が…?」
「左様。 丁度、拙者が十二、三位の頃であったか…?」
「若っ!想像出来ない…その頃からもう忍者だったの?」

「うぬ、産まれた時から拙者は忍になる定めだったのでござる」

「………そんなの、酷いよ…」
「…幸姫? 泣いておられるのか?」

「バカっ!泣いてない!…み、見ないでよ!!」
「わわわっ、暴れないで下され幸ひ…うわっ!!」
「キャーッ!!」


ぽかぽかと背中を叩かれ、足元を滑らせた。

運悪く近くにあった水溜まりに、拙者と幸姫は転んだ。


「…った~い!!」
「…泥だらけでござるな、幸姫」

「もうっ、霧助のバカっ!」
「あくまで拙者のせいに致すか…」

「霧助が転んだからでしょ!」
「何を申されるか、幸姫が暴れるからでござる!」

「もう知らない!!霧助のバ~カ!」
「はぁ…やれやれでござるな…」


泥まみれの泣き虫姫をまたおぶり、拙者は叩かれながら城下町に辿り着いた。