砂利道を歩く拙者と幸姫。
互いに無言で、何も会話がない。

拙者の一歩後ろを付いてくる幸姫は、未だに無言。


「…? 幸姫?」
「…れた」


ふと、一人分の足音が止んだので気になって振り返ると、幸姫は数歩離れた所でしゃがみこんでいた。


「何でござるか?」
「…だから、歩き疲れたの」
「なんと…!まだ屋敷は遠くにござりまするぞ!?」
「忍者の霧助と一緒にしないで!」


全く、なんと図々しいお方だ。
そう申されても、貴女はこの森を通って湖に辿り着いたではござらぬか。

拙者は呆れつつも幸姫に歩み寄った。


「…おんぶ」
「はぁ?」

「おんぶして!」
「何を申されるか!?」


しゃがんだまま拙者におんぶをせがむ幸姫。
両手を伸ばし、まるで抱っこをしろと言わんばかりに。


「幸姫、貴女いくつでござるか?いい歳しておんぶなど、笑止!」
「いいからおんぶしなさいっ!」
「まだ申すか……ぬ?」


ふと、幸姫の足元を見る。
着物で隠れよく見えぬが、草履で皮が擦りきれておる。


―――…この姫は…最初から本当の事を申せば良いものを…。


「…ん」
「な、なに?」

「何って…幸姫がおんぶしろと申されたのでござろう」
「何で急に…」
「いいから、ほら」
「あっ…!」


いつまでも躊躇う幸姫に業を煮やし、拙者はその細い腕を引き寄せ背中に背負わせた。


「…ありがとう、霧助」
「…城下町に着くまででござりまするよ」