「ピッピィー!!」
「ぬ、もう見付けたのか、夜叉丸」


翼を拡げ拙者の腕にとまる夜叉丸。
拙者は夜叉丸に褒美の餌を与え、再び空に放った。

後は、夜叉丸に付いていけばいずれ幸姫の元に辿り着こう。

夜叉丸は城下町を抜け、森の中を進み、やがて花畑が美しく咲き誇る湖に出た。

その湖の側で、花畑の花を摘む小さな後ろ姿。


―――幸姫、発見。


未だに拙者の存在に気付かない幸姫は、鼻唄を唄いながら花を集める。

拙者は音もなく忍び寄り、幸姫に声を掛けた。


「幸姫…」
「…!!キャーッ!!曲者!!」
「ぶっ!」


突然湖の水を投げ掛けられ、拙者は水浸しになる。

顔から水滴を滴らせ、無表情になった拙者を見て、幸姫はそこでようやく気付いた。


「あ…き、霧助…?」
「………政幸殿も、幸姫も、そんなに拙者の忍装束を汚したいのでござるか」

「ごっ、ごめん…気が付かなくて…!」
「もう良いでござりまする」


拙者は手拭いで顔を拭き、幸姫に向き直った。


「政幸殿がとても心配されておりまする。さぁ、拙者と共に屋敷へ帰りまするよ」
「ちょ、ちょっと、私家出中なんだから帰らないの!」
「何を申されるか、今度ばかりは政幸殿もご立腹でござるよ」

「うっ…ますます帰りにくいじゃない…」
「幸姫が家出等致すからでござろう」


そもそも、何故家出等決行致したのかが、拙者にはわからぬ。

政幸殿と特に喧嘩した訳ではないと申すのに。


「何故家出等致しまする、幸姫」
「…………」

「…はぁ…。申されたくないのなら、申さなくても良うござりまする。さぁ、帰りまするよ」
「……わかった」


拙者と幸姫は森の中を進んだ。