「霧助!!霧助はおるか!!」
「はっ、ここに」


屋敷を揺らさんばかりの大声で、拙者の名を叫ぶ政幸殿。

珍しい事もあるものだ、あの冷静沈着な政幸殿が大声を張り上げるとは。


「霧助、幸が…幸が…!!」
「なっ、ちょっ…落ち着いて下され政幸殿!」
「これが落ち着いてなどいられるか!!」


拙者に抱き着き涙を流す政幸殿。
せっかくの美男が台無しでござるよ。


「政幸殿、まずは深呼吸を」
「ひっ、うっ…く、うぅ…」
「…一体幸姫がどうなされた?」

「うっ…うぅ…幸が…幸がいなくなった!」
「幸姫がいなくなった!?」

「えぅっ…幸の部屋に、うっ…置き文、が…お、置いて…っ」
「とにもかくにも、まずは落ち着いて下され。話はそれからでござりまする」


メソメソと女々しく嗚咽をあげる政幸殿は、涙でグシャグシャにされた文を拙者に渡した。

しがみつく政幸殿の頭を撫でながら読むと、なるほど家出でござるか。
あのお転婆姫、ついにやりおったな。


「幸、にっ…も、もしもの、事が…うっ、事が、あったら…おっ、俺は…俺は…!!」

「ご心配召されるな、政幸殿。拙者が必ずや幸姫を連れて帰りまする」
「そ、それはっ、真か…霧助」

「お約束致そう」


泣きはらした顔を拙者に向け、政幸殿は大きく頷いた。


「さぁ、涙をお拭き下され」
「わ、わかっ、わかった…」

「よしよしでござる…って、拙者の忍装束で鼻水を拭かないで下され!!」


油断も隙もござらぬな、やはり幸姫と血をわけた兄君でござる!


「うっ…く、た、頼んだぞ…すん…霧助」
「あーあー…拙者の忍装束が…洗ったばかりと申すのに……。わかり申した、それでは行って参りまする」


さて、迎えに参るか、あのお転婆姫を…。