「霧助…いる?」


静かに障子を開く、幸姫。
その様子は、恐る恐るといったもの。





「如何なされた、幸姫」

「…ううん、何でもない!遊ぼう♪」
「可笑しな幸姫でござるな、わかり申した、お付き合い致そう」




―――拙者は、狐太刀に勝った。

あの時、狐太刀はクナイを拙者に弾かれ、心の臓を刺された。

よろめき後ずさる狐太刀を、拙者は息を切らしながら見つめていた。


「ふっ…ふはははは…!」
「はぁ…はぁ……何が、おかしい…っ!」

「まさか…お前が打ち勝つとは、な…」


狐太刀は、己の胸から滴り落ちる血を手で押さえ、尚も笑う。


「やはり…主体には、勝てないか…」
「…!!狐太刀…お主…!」

「良い、何も言うな…」

狐太刀の体が、少しずつ消えていた。
奴を中心として、辺りに霧が広がり透けていく。


「俺の敗けだ…このまま潔く消えよう」
「待て!お主は…お主は一体…」

「霧助、最期の頼みだ」


それ以上を言わせないように、狐太刀は手で制した。


「どうか、幸に伝えてくれ…愛していた、と…」

「…!!」


そう申すと、狐太刀は完全に霧に溶け込み、きえてしまった。

―――カラン、コロン。


「…!これは…」


後に残ったのは、以前城下町で購入した…あの橙色の櫛であった。