あの声を聞いてから、拙者は狐太刀となって幸姫の前へ現れなくなった。

恐ろしくなったのだ、自分自身が。


『なんと厳しい男だ』


―――…あの声は、確かに…確かに拙者の声だった。

こんなことが果たして有り得るのか?
耳元で聞こえた、第三者からの声が己の声などと…。

任務の最中では着ける狐の面…。

任務が終われば、すぐに面を外した。
あのままでは、いずれ……。


拙者は嫌な妄想を頭から振り払い、屋敷に戻った。

やはり寝静まった屋敷。
今夜はもう遅い、流石に幸姫も床についておる。

あの幸姫と狐太刀が出会った木の元で、拙者は溜め息を吐いた。



「…よくも幸と引き離したな」
「…!!何奴!?」


振り返ると、そこにいたのは…。


「…そんな、有り得ぬ…!!」
「感付いたか、流石霧助だ」

「何故…何故だ、何故お前がいる…狐太刀!」
「ふっ…何を言っている」


狐の面を着けた、もう一人の拙者…。
腕を組み、あの木に寄り掛かる狐太刀。


「俺は、お前の念から生まれたのだ」
「拙者の…念からだと…?」

「恨み、妬み、焦り、怒り…お前の様々な邪念から、俺は成り立っている」
「一体どういう事でござる!!」
「まだわからないのか?」


満月に照らされた狐太刀の狐の面。

怪しく照らされ、その笑みとも怒りとも言えぬ面が、拙者に向いた。



「俺はお前から拒まれ、邪念の塊となって現れたのだ」