拙者と幸姫は、内と外の立場で談笑した。

幸姫は廊下に座って、拙者は木の上に座っている。

投げ掛けあう声と声、まるでそこに見えない壁でもあるかのように、拙者達は一線を引いて話していた。


「でね、霧助はそういう時に限ってクナイ出してくるの!酷いでしょ!?」
「ハハハッ…そうだな」


この姫…普段からそのような事を思っておったか…。
しばらくはクナイをちらつかせるのは控えておったと申すのに。

拙者は、まるで客観的に二人を見ているかのような錯覚に陥った。

自分が自分ではないような気がしてならぬのだ。


「狐太刀って、本当にいい人だね!」
「そうか…?」
「そうだよ!だって、私の話を聞いてくれるもん!」
「…霧助は、聞いてくれないのか?」


拙者は、何を申しておる…。
何故、そのような事を…。


「霧助?…っぜーんぜん!だって、最近はちっとも構ってくれないし、屋敷を空ける日が多いんだもん!話し掛けても忙しいの一点張り!!」
「…そうか」


なんと…ちっとも気付かなかった。
幸姫がそのような事を…?

確かに、晴之助が来てから幸姫とはあまり話していなかったな…。


「でも、もう大丈夫!」
「…?」

「だって狐太刀が、私の話を聞いてくれるもん!」
「…!!」


…負けた、拙者は"狐太刀"に、負けたのだ。

今の幸姫には、拙者ではなく狐太刀が必要なのだ。


「ねぇ、狐太刀!これからも来てくれるよね?」
「…あぁ、勿論だ」
「やったぁ♪」


無邪気に喜ぶ幸姫。
今の幸姫にとって、日向霧助は未だに帰らず…か。


ならば、日向霧助にできぬ事を、狐太刀がやってのけようではないか。