夜、拙者達は静まり返った御嵬寺に忍び込んだ。

あまり手入れをされていない御嵬寺は、どこか不気味な雰囲気を醸しており、此処こそが霊に憑かれておるのでないのかと思うほどに。

兄上と晴之助は左右に飛び交い、拙者は真っ直ぐに廊下を走る。
無論、物音を立てぬように細心の注意を払いながら…。


「ぐがぁ~…んがぁ~…」
「……………」


拙者の目の前で鼾をかくのは、御嵬寺の和尚であった。

その辺に空の酒瓶が転がっているあたり、おそらく泥酔してそのまま廊下で眠りこけてしまったのであろう。

いっそこのまま遠くの森に投げ捨ててしまえば良いのではと思ったが、そういう訳にもいかぬ。

拙者は豪快な鼾をかく和尚を蹴飛ばし、廊下からその図体を落とした。
ゴロゴロと愉快に落ちた和尚は驚いて飛び起きた。


「なっ、何だ!?」
「目覚めたか、和尚」
「…!!な、何だお前は!?」


拙者は黙ってクナイを構え、和尚に歩み寄った。
それを見て怯えた様子の和尚、青い顔で待ったと手を出した。


「まっ、待ってくれ!!俺が一体何をしたって言うんだ!?」
「……………」


話すことはない、いや、話す必要がない。

拙者今、ここで和尚を殺す訳ではないのだ。
拙者の役目は、この和尚を怯えさせる事だけ。


「た、頼む!殺さないでくれ!金が欲しいのか!?」
「民の涙と憎しみで汚れた金など、いらぬ」
「…!!ひ、ひぃぃっ!!」


助けてくれと叫び逃げていく和尚。
拙者は特に追うこともなく、その場に佇んだ。

よしよし、そのまま走れ。
その先には兄上が待ち構えておる。

兄上が薬で弱らせ、仕上げに晴之助が半殺し。

自分の役目が終わり次第、帰って良いとの話だったな。

拙者はクナイをしまい、御嵬寺から出た。


それと同時に、和尚の悲鳴が響き渡った。