久々の豪雨…晴れ続きだった空を、黒い雨雲が覆っている。

拙者は雨で濡れた廊下を拭く。
幸姫が走って転ばれぬように。


「久しいな、霧助…」
「…!その声は…!!」


突如投げ掛けられた声…。
外を見ると、傘をさした男の姿…あの紺色の着物は…!


「兄上!」
「会いたかったぞ、霧助!!」
「うわっ!!」


傘を捨て飛び込んできた、兄上。
拙者はスレスレの所で避けた。


「な、何故避ける、霧助!久々の兄の抱擁を…!!」
「何を仕組んでおるかわかりませぬ故…というより、反射的に避けてしまい申した」
「ふっ…相変わらず初奴だな…」
「何を勘違いしておりまする」


この者の名は、日向雨之丸(ひゅうが うのまる)。
忍と薬売りの仕事を両立した、拙者の兄でござる。

晴之助も含め、先日から拙者の兄弟がよく来るな…。


「兄上、一体何用でござる」
「お前がどうしてるか気になってな…というか、お前に会いたくなった」
「だったらもう用はお済みになられたでござるな、さぁ帰られよ」
「断る!!」
「断る!?」


この兄まで何を申すか!!
どうしてこうも拙者の兄弟は自己中なのだ!


「"伝説の忍三兄弟"の一人として恐れられていたお前が、廊下の拭き掃除か…なんと愛くるしい!!抱かせろ!!」
「意味がわかりませぬ!!それを申すなら、兄上も一緒でござろう!?」


実はこの兄、毒薬の試飲である日を境に男色になってしまわれた。
どうしてこのようになったか、詳しい事は拙者もわからぬが、会う度に拙者を抱こうと致すので非常に恐ろしい。


「今それを全うしているのは、お前と晴之助だ。俺は薬売りもしているから関係ない」

「嘘を申されるな。"雷雨の雨之丸"が戻ったと町中は賑わっておりまする」

「なんだ、霧助。妬いているのか?」
「全然妬いてなどおりませぬ。阿呆でござるか兄上は」
「可愛いな…さぁ、布団へ行くぞ」
「拙者に触れるな!!近寄るな!!」
「照れておるのだな、安心しろ、優しくしてやる…」
「これ以上近寄るのであれば、兄上とでも容赦せぬぞ!!」


拙者は何とか兄上を追い返し、我が身を守り抜いた。