忙しい、拙者は忙しいのでござる。

何がそんなに忙しいのかと申すと…。


「日向霧助!真面目に闘え!!」
「拙者は真面目でござるよ、晴之助」
「叩きで闘っておいて何が真面目だっ!!」


そう、今拙者の目の前で喚く忍に、手を焼いておる。

せっかくなので紹介致そう。
この者の名は、日向晴之助(ひゅうが はるのすけ)。

そう、拙者の弟でござる。

拙者と違い冷血で残忍な、暗殺の達人と恐れられておる忍だ。

実を申すと、拙者は晴之助が苦手でござる。
昔から冗談が通じぬ上に、この嫌われよう…。

一体何をそんなにカリカリしておるのか。


「晴之助、止めぬか…拙者、掃除で忙しいのだ」
「忍の癖に掃除とは…恥を知れっ!!」
「おっと…」


飛んできた手裏剣を麻布で取る。
晴之助は悔しそうに拙者を睨んだ。


「危ないでござるなぁ、壁に刺さったらどう致す。拙者、お前に何か気に障るような事を致したか?」
「くっ…!貴様のその飄々とした態度が昔から気に食わないのだ!!」

「…それは、お前が単に堅物なだけで拙者は何も…」
「黙れっ!!」
「おっと」


今度はクナイか、兄に対しても容赦せぬなこの弟は。

拙者はこれも麻布で取り込んだ。


「何故避けない!?一々取るな!!」
「壁に刺さったら困るからでござるよ。ほれ、返すからとっとと帰れ」
「なっ…!」


拙者は麻布で取った手裏剣とクナイを、まとめて晴之助に投げた。
その数、ゆうに十数以上。

晴之助は素早くかわし、空を斬った手裏剣とクナイは外の木に刺さった。


「くっ…!次こそはその首もらい受ける!!」


そう吐き捨てると、晴之助はそのまま屋敷から出て行った。


「…何がしたかったでござるか、あいつ」


腰に手を当て、小さくなっていく後ろ姿を見送り、拙者は掃除に戻った。