拙者と幸姫は、夕暮れ時まで鬼遊びを致した。
忍である拙者に勝とう等、笑止。

しかし、そこは敢えて手加減せねば"遊び"にならぬ。
本気を出してやれば、拙者は只の鬼でござる。


「はぁ…はぁ…はぁ…。霧助、次は霧助が鬼だから…ね…!」
「あぁ、捕まってしまったござる。今度は拙者が鬼でござるな」

「…二人共、何をしておる」
「あっ、兄上!」
「これは政幸殿、もう見合いは終わったのでござるか?」

「あ…あっ、あっ、あぁぁーッ!!」
「いっ…!すぐ側で叫ばないで下され幸姫!鼓膜が痛とうござりまする!」
「兄上のお見合い、忘れてたぁーッ!!」

「ふふ…霧助との遊びに夢中ですっかりだな、幸」
「あぁぁ…最悪…」


がっくり項垂れる幸姫をみて、何やらご機嫌な様子の政幸殿。


「して、政幸殿、見合いの結果は…」
「ん?勿論丁重にお断りしたよ」
「…え?」
「やはりそうであったか、まぁ予測はしていたでござるよ」



政幸殿は幸姫の元へ参ると、その驚きに満ちた顔に手を当て微笑んだ。


「泣き虫なお前を残して結婚等するものか。幸、俺はまだ独身者だぞ」
「あ、兄上!大好き~っ!!」
「幸、その笑顔と言葉が聞けて良かったよ」


何をデレデレしておるか、この当主は。

ほぼ全くと言っていいほど、成立する見合いではなかったと申すのに。


「じゃあ、兄上はまだ独身なんだねっ!」
「あぁ、独身だ」
「やったぁ!兄上はずーっと、独身だね!」
「あぁ、ずーっとだ」

「いや、ほのぼのしながら何をとんでもない事を申されるか」


ずっと独身等有り得ぬ、そんな事致すと、この神代家は政幸殿が末代となってしまうではござらぬか。

笑顔で行き先恐ろしい事を約束しないで下され。