政幸殿と晁子殿の見合いの日が近付く中、幸姫は未だ嫌々しておられる。

その度に、とても悲し気で、困った顔をされる政幸殿。
政幸殿も、あれだけ溺愛していた幸姫の主張を受け入れぬとは…余程重要な見合いなのだろう。


「幸…」
「知らない!兄上がお見合いを取り止めるまで、私兄上が大嫌いなんだから!」
「大嫌い…?そんな酷い事を言って、兄さんを苛めないでくれ、幸…」
「知らないったら、知らない!!」

「お二人共…言い争うなら、拙者の部屋でなく他所でやって下され…」


拙者の背中にしがみつく幸姫と、それに便乗して幸姫の着物を掴み説得する政幸殿。

拙者を巻き込まないで頂きたい…。
何の鎖繋がりでござるか、この体勢は…。


「幸、兄さんはこの見合いを断れる程身分は高くないんだ」
「でも、高さはほとんど向こうと一緒でしょ?」
「それでも、たった一つの段位でも、向こうの身分が上な限り、断れないんだ」
「むー…!」

「お、重いでござるよ二人共!!」


突然、拙者の背中に加わる人一人分の重み。

これではろくに巻物も読めやしない!


「あーもう、幸姫も政幸殿も、取り敢えず拙者の背中から退いて下され!」
「はーい…」
「すまない、霧助…」


拙者は正座するお二人に説教した。


「良いでござるか、幸姫!政幸殿は意地悪で幸姫の我が儘を無視してはおりませぬ!第一に、政幸殿も断れるならとっくに断ってるでござるよ!政幸殿がこの見合い話に乗り気でないのは、幸姫もおわかりでござろう!?」
「そうだけど…」

「政幸殿も、もっと堂々と構えて下され!妹君に対し、いつもその調子ではこれから先、一生主導権を握られる生活になりまするぞ!もっと兄君としての威厳を自覚して下され!!」
「すまない…」

「一度決まったら事はもう変えようがござらぬ!お二人共、もう言い争うのはこれでお仕舞いでござる!!」



渋々頷く二人を確認して、拙者も頷く。


「この件に関しては、もう口にしてはなりませぬぞ」
「「わかった…」」


久々に、胸がスカッと致した。