「やだやだやだ!!絶対にやだっ!!」
「幸、嫌なのは俺も一緒だが…仕方ないだろう」

「如何なされた、お二人共…」
「霧助か…」


朝から騒々しいな…一体何事でござる。

見れば、幸姫が政幸殿にしがみついて嫌々しておる。


「いや、実はな…」
「私、兄上が結婚するなんて、絶対やだ!!」

「けっ、結婚!?」
「これ、幸…話が飛躍し過ぎだ」
「やだ~っ!!」

「政幸殿、これは一体…」
「あ、あぁ…実は今度、友の峯本家で見合いをする事になってな…」


政幸殿は苦笑いでそう申した。
幸姫は、未だに政幸殿の着物を引っ張ったり、しがみついたり、忙しない。


「まだお若いと申しすのに…一体何故でござる、政幸殿」
「兄上!!あんな女とお見合いするなんてダメだよ!」
「幸姫、ちょっと黙って下され」

「うん、それが…向こうの長女が俺に惚れているらしい」
「は?峯本家の長女と申されますと、あの…」
「晁子なんてぜ~ったいダメ!!あいつ、超意地悪なんだから!!」
「やはり晁子殿でござるか…」


度々出てくる名前でござるな、それも神代家によく関わってくる。

なるほど、晁子殿と犬猿の仲である幸姫には、耐え難い話でござろう。


「幸、我が儘を言って、兄さんを困らせないでおくれ」
「むー…!」
「幸、頼むよ。兄さんは、お前がその膨らませたまぁるいほっぺが、パンっと破裂しないか心配で、おちおち寝られやしないよ」
「馬鹿にしないでっ!」
「政幸殿、よくそんな台詞がすらすらと出てくるでござるな…」


このお方は、時々異常な妹愛を垣間見せる。

…まぁ、最も…今ではたった一人の肉親でござるからな…。


「私、絶対認めないからねっ!!」
「あっ、幸!」
「放っておいた方が良いでござるよ、政幸殿」

「幸…」


切な気な政幸殿の横顔…。

拙者とて、幸姫と同じ意見でござりまする。

しかし、拙者にはその見合いの取り止め等できぬ。
…それが、忍の立場なら、尚更でござる。