政幸殿から、呼び出しがあった。

―――きっと、先日の件でござろう。

目の前で忍ごときに妹を叱られれば、兄として腹がたつのも頷ける。
拙者は、解雇処分の覚悟で政幸殿の前に正座した。

政幸殿は、真剣な面持ちで拙者を見ている。


「霧助よ」
「はっ…」

「今日お前を呼び出したのは、伝えたい事があったのだ」
「…………」


やはり、解雇処分か…。
無理もない、無礼を承知で行った事だ。


「ご安心下され、明日までには、荷物をまとめて出ていきまする」
「…何を申しておる」

「…は?解雇処分の話では…」
「お前は何か勘違いしておるな。解雇等するものか、お前はあの時正しいことを申したのだ。おかげで幸も自分に自信を持っておる」

「それは、真でござるか政幸殿」
「あぁ、俺は嘘をつかない。今日話すのは、許嫁の件についてなんだ」


ホッとしたのも束の間、許嫁という単語を聞いて拙者は体が強張った。


「許嫁…?一体誰の…」
「幸の、許嫁についてだ」
「幸姫の…!?」


聞いたことがござらぬ。
幸姫の許嫁?


「政幸殿、それは…その、御相手は…」
「いや、お前に伝えたかったのは、幸に許嫁がいるという事だけで、相手が誰なのかは言えない」
「さ、左様でござりまするか…」


自分でも、動揺を隠せていないのがわかる。
何でござろう、この焦りは…この、不安は…。

めでたい話では…ござらぬか…。


「相手がその気になるまで、式は控えておこうと思ってな。幸はおそらくその気になっていると思うのだが…。霧助にも、それだけは伝えておこうと思い、今日呼び出したのだ」
「お心遣い、感謝痛み入る…」

「うん、話はそれだけだ」
「はっ、それでは、しっ、失礼致しまする」


―――幸姫は、その気になっておられるのか…。

……早く、幸姫の幸せな笑顔が、見たいものだ。