「作法は…諦めた方が良いと思いまする」
「えぇ!?何で!?」
「幸姫は作法のさの字も知らぬでござろう」


そもそも、このお転婆姫に作法等理解出来るのか…?
拙者は不安に駆られた。


「大丈夫!お客さまのおもてなしは、人通りわかるんだから!」
「では、客人が訪問された際の対応は?」

「兄上が知らない人が来ても出ちゃ駄目だって…」
「もてなす以前の問題ではござらぬか!!」


居留守を決め込む妻がどこにいようか!
夫の不在時は、妻の対応が大きく今後に関係すると申すのに!


「あ、でも、聞いたことあるよ!確か、"ぶぶづけ"をお出しするんだよね!!」
「それは帰宅の催促でござるよ!」


中途半端な知識で客人をもてなそうなど、止めて頂きたい。
神代家に赤恥をかかせるおつもりか。


「っていうか、ぶぶづけって何?」
「それを知らぬというのに、どうやってお出しするおつもりでござる…」


一体どこから仕入れた情報でござる。
危うく客人を怒らせかねる行為でござるよ。


「幸姫、ぶぶ漬けとは、平たく申せば茶漬けでござる」
「お茶漬け?じゃあお出ししても平気でしょ?」

「いえ、ぶぶ漬けをお出しする、もしくは勧めるというのは、京言葉で暗に帰宅の催促を表す手法でござる」

「は?何で?」

「詳しい事は京の者ではござらぬ故、拙者も知りませぬが…勧められれば丁重に断り帰宅し、出されればさっさと食べて帰宅致す。それが常識でござるよ」

「ん~?ややこしい作法だなぁ…」
「さ、作法とはまた違いまする」


やはり、幸姫に作法は難し過ぎるか。
これは、拙者が教える以前に、幸姫に学ぶ意欲がないと覚えるのは不可能。

作法も失敗か…いっそ清々しい位でござるよ、幸姫。

拙者は未だに悩む幸姫を見て、苦笑した。