「今日は裁縫を致しまする。幸姫には今回、玉結びをお教え致そう」
「はーい」


拙者は棚から裁縫箱を取りだし、幸姫の前に置いて見せた。
何故か幸姫は、裁縫箱を食い入るように見つめている。


「…?如何なされた、幸姫」
「…これって、霧助の裁縫箱?」
「左様でござるりまするが…」

「うっそ!やだ、可愛い~♪」
「か、可愛い!?」


何を申されるか!!
男子に対して…ぶ、ぶ、無礼な!!


「でも何で兎と桜柄なの?霧助の趣味?」
「そんなことより、さっさと始めまするよ!」


拙者はせっせと裁縫箱から針と糸を取り出した。


「玉結びとは、布から通した糸が抜けない為に施すものでござる。玉結びには指で結ぶものと、針で結ぶものと、二種類ございまする。今回幸姫にやって頂くのは、指で結ぶ一般家庭向けの方でござる」

「ふーん…ややこしいね」
「ここで根をあげられては困りまする。さ、拙者のやるようにして下され」


拙者は赤い糸を針に通し、指に絡めた。

幸姫の方は……。


「くっ…糸が入らない…!」
「…そこからでござるか…」


幸姫に任せていれば、日が暮れてしまう。
拙者は幸姫から針と糸を奪うと、さっと通して返した。


「すっごーい!霧助、どうやったの!?」
「慣れでござる」
「ね、もう一回やって見せて!」
「いいから、さっさと真似するでござるよ」
「ちぇ~…ケチ」


拙者は無視して作業に移った。


「このように、糸を指に巻き…」
「うん、うん…いたっ!!」
「ゆ、幸姫!大丈夫でござるか!?」
「痛い…血が出た」
「針を扱う際は気をつけて下され!…あーもう!ほら、消毒致すから付いてきて下され!!」
「はーい…」


裁縫は見送りでござる。
この調子だと幸姫の手は穴だらけになってしまう。

やれやれ、でござる…。